四国霊験記・巻の下
〜繁田空山法眼著〜



 第廿二番 本尊薬師如来 坐像二尺大師ノ御作 その二

 亦問う:人に病の発る其因縁を聞し玉へと。

 答え:サレバ人体に四百四病が発ると云ふハ皆是不足の別なり。四気の徳を合て四神と云。この四神が安全なる時ハ無病也。一気が調ハざる時ハ一百一病を生ずと云。四神皆乱れる時ハ四百四病を生ずと云。この中にて一百一ハ治せずして自然から癒ると云。亦一百一病ハ直に癒る。亦一百一病ハ次すと云とも癒がたく、亦一百一病ハ真に死す。是れを死病と云也。是れ皆七情の心より発ると云。然れば七七四十九日の主しハこの薬師如来なり。七日ことを陰陽の変りめと云。是を一周とも云、人間体中の腸胃に止る所の水穀も皆分量有て七日にして飲食を改ると云なり。是に依て七日を一周と云なり。是故に薬師を信仰のする人ハ病なしとハこの義なり。亦身中の病ハ妙薬にて治すと云とも、尚又心中の病ハ妙薬にて次せず。只この薬王仏の瑠璃の大妙薬にて奇妙に次すべし、尊むべし、信ずべし。

 亦問う:廿二番平等寺の本尊になんぞ不思議の有しことを聞し玉へ。

 答え:昔あらた(の)村に一人の百性有けるに、此人毎年毎年他家の代参致して金銀をむさぼり四国へ廻る非道の欲人。然るに今般先祖の年忌を相勤め平等寺の上人を請招し、親類縁者近所の人々を招いて、馳走を出し法事を勤めて居る所へ表のゑん前に一人の偏路が休て申やう、 「鳥渡御頼申上ます。平等寺へ参詣の致して来る間此荷物を此所に暫く置き下さる様宜敷御願申ます。」

 と門と口より云ける故、

「サアサア夫に置て御越成され。」

 と、内より申せば喜んで早平等寺へと急ぎ行く。然る所に法事のかんきん(看経)相済んで□も終りと相成けれバ、皆一同に申けるハ、

「何んと最前の御偏路はまだ御帰らんか、コリヤひどうおそいでハないか。何に故かやうにひまどる。」

 と、皆々ゑんへ立出て持参の荷物を座敷へ持込、能々見れば俵づヽミの荷持故「是れは不思議。」と、俵の内をよくよく念入気を付て改めバ、こわ是れいかに毎年毎年代参して札所札所へ納め来た今迄参りし納札残らず俵の中にあり。外の品物少しもなし。主は「是れは」と驚きて大いに赤面致しける。平等寺の上人も「是れハ不思議」と能(よく)見玉へバ九年十年代参して納めし札を一枚も残らずかへし玉ふなり。

 是は大師の御方便、此時主じ色青さめ合掌して御寺の方を伏拝伏拝、

「恐ろしや勿体なや。何卒此罪免(ゆる)し玉へ、南無大師遍照金剛。」

 と、一心不乱に懺悔するこそ愚也。此時村中馳集り笑わぬ者ぞなかりける。只此人は常々に人を欺き、謀計して諸人の代参してくらす我金貰くる斗也。人に金銀むさぼりて四国の霊地を巡れども御本尊も大師さまも只の一度も拝めばこそ、納め札を柱に張付皈る曲者也。只今大師の神通にて納め札を戻し玉ふは世間の人への見せしめにて、今此二十二ばんいて不思議を顕し玉ふ所の因縁也。此後寺の大上人御大徳の院家故納札を遍路が皆大切に致す様と寺内の中に石穴を掘りし其上に地蔵菩薩を安置し玉ふ。此石穴の其中へ一年中の納札、皆此穴へ入置て大供養を行ひ玉ふ。四国の霊場に双びなし。廿二番の平等寺は代々尊とき上人が住職成さると世間の噂。彼見せしめに□心して懺悔の致し、此人は真の修行を一心に、四国の霊所をけたいなく二十一度順拝し二世安楽の身と成りました。有りがたし勿体なし、信ずべし恐るべし。


第廿二番 その一 / その三



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