遍路と原爆(五)



 前にも述べている如く空外先生は浄土宗の僧籍である。昭和四十一年小生が大学入学した年に大学を退官しておられるのだが、妙慶院など各地での講話は相変わらず続けておられたのである。それに小生はよく出かけていたのである。残念ながらというか、性に合わないというか、木魚連打の念仏三昧にはほとんど参加していない。話が面白かったというか「性に合った」のである。

 「仏法遥かに非ず、心中にして即ち近し」とか「異生羝羊心〜十住心論」などの話がよく出てきていたように覚えている。いずれも空海さんの著述に出てくる言葉である。

 十数年前、二十数年にもなろうか、一度空外先生が松山に来られた時、妻を連れ立って話を聴きにいったことがある。道後手前の警察署を右に入ったところであった。まだ子供の居ない時であるから、昭和五十三年か五十四年のことだ。そのときもたしか「仏法遥かに非ず、心中にして即ち近し」が出てきたように想う。アアやはりこの言葉を紹介しておられるな後の感想。西方遠くに居られると言う阿弥陀仏の所在についての考え方のことで、空外先生はこの空海著述の語をよく引用されているのである。



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