南天龍宮城(5)


【宝生房云はく】

 宝生房の霊示文=『五輪九字明秘密釈』末辞をもう少し丁寧に読んでおこう。

@忽然化現宝生房云
 宝生房こと教尋は、文殊菩薩を仰信し常に菩薩と談論せしといふ。永治元年1141 三月二十三日弟子等をして法華提婆品・文殊真言を読誦せしめ、文殊の来迎を受けて示寂す。
A『崑崙一度崩
 崑崙とは?仏典にいふ香山・香酔山。往昔はパミール高原一帯を総称したり。果して須弥山との関係は、また崩れるとは?それも一度。
B金石即一物
 混沌状態の意歟。
C毘彌両観凡聖無二
 毘彌は凡聖に非ず。また混沌関係にも非ず。金石=凡聖。一物=無二。ここで毘彌を並べているのは、混沌状態であっても弥陀即大日の真理(真実)を述べ、さらに文殊の活躍(湧出)する世界は阿弥陀如来(妙観察知=西方無量寿仏の智徳)の主  管するところだと暗示しているのである。   
D吾是金色世界古衆
 金色世界は(崑崙のこと歟=否!)「文殊菩薩の浄土の名」ー宇井佛辞ー。宝生房は文殊菩薩に迎えられている。法華経提婆達多品では、文殊菩薩は「大海沙竭羅竜宮より自然に涌出して」いる。このとき「三千の衆生菩提心を発して受記を得ている。ここの衆生は?龍神もいたのである。
E汝密厳浄土新人
 金色世界と違って大日如来の浄土。華厳経所説の華蔵世界も、浄土門処談の極楽世界も此が異名なりとす(宇井)。
F若入此贍葡林誰人有異薫哉』
 贍波campakaまた占婆・贍葡・贍博迦。黄花樹、金色花樹。其花香気ありて遠く薫じ、金翅鳥来れば之に止るといふ。

 やはり注目すべきは宝生房と文殊菩薩の関係。さらに文殊菩薩と龍族の関係である。勿論《弥陀即大日》も《崑崙》も重要な事柄である。この辺り佐々井師は「良くそこに気付いたなあ」だったか「面白いところに眼をつけたなあ」とかの言であった。
 ナグプール郊外マンセルが南天竜宮城に看做されていることと、覚鑁上人の著述、宝生房の信仰からも、インドにおける佐々井師の行状は竜樹菩薩から連綿としてアンダーカレントな流れを形成していることが感じられるのである。


【龍樹菩薩大寺】H22年10月



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