徳右衛門丁石の話

 その17-2


 少し、用字「従是」について述べておこう。道標石などでよく使われている言葉である。勿論漢字であるが、読みは和風に「これより」である。真念の標石では概して分岐点での左右指示が多かったのであるが、たまさかに「これより」が見られる(カット①参照)。徳右衛門の場合は標石の立っているその場所から次の目的地(札所寺院)までの距離が重要事だけに「これより」の言葉がまず目につく所に彫ってある。

 弥谷寺口の丁石の拡大写真②を提示しておいたが、下手な写真で読み取れるであろうか。「従是」には明らかに「与里 古礼」のくずし文字がフリガナとして彫ってある。無知文盲のヘンロ者にたいする親切心のなせる業(ワザ)というよりは、文化的余裕といったものである。時代精神が容易に遊んでいると言っても良い。江戸時代と現代では生活レベルでの言語世界には大きな差がある。一方連綿とした共通な部分も無いわけではない。現に漢字文化圏に浸っていることには変わりはないからである。ここで関連した標石二点を紹介しておこう。

 同じことに「自是(=これより)」を使っている場合もあったが、ここではやはり「従是」の例として藩境石(領界石)③を出しておこう。現代の道路にはたくさんの標識が溢れているが、かっての主要街道の国境(藩境)に立派な立石がみられたのである。現在の道路事情で移転保存されているものが多い。

 次に現代の石で、面白いことに「従是」ではなく「是従」④になっているものがあった。これなど単なる誤謬でもないし、それといった遊び心でもないようだ。「これより」四文字より短い二文字で刻面が引き締まっているようにも感じられるが…。



①真念「これより くわんおんじみち」


②フリガナ「与里 古礼」の崩し字


③領界石「是より東 西條領」


④上部に小文字で「是従」とある


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