阿波柳水庵のこと 上
〜同行新聞 昭和61年12月1日 第301号〜


その1

 阿波北方(吉野川左岸)には一番霊山寺から十番切幡寺まで、十里十ケ所と称して一日で巡拝することができるそうです。
 平野部でもあり、札所間の距離も短いからですが、さて十番から吉野川を渡り(この川渡りに苦労したヘンロさんも多くさんいた)、十一番藤井寺を打ち納め、これから十二番への順路が大変です。
 わずか三里(四十八丁が一里?)といいますが、山越の道が厳しく、この道を避けて通ったヘンロさんの数も案外といたようです。

 筆者も昭和四十九年五月二十二日にここ「柳水庵」を通過しています。
 その日は藤井寺の本堂(現在は新しく建てられていますが、前の本堂)の向って左側の縁に宿を取っていたのですが、一晩中小雨が降っていました。
 朝五時前に起床。同十五分に出発。長戸庵には一時間半位で到着。そして柳水庵には長戸庵から一時間余りかかっています。
 到着が八時となっていますから、藤井寺から柳水まで、三時間弱かかっています。
 その時のメモ帳には、ただ「八時 柳水庵」と記しているのみで、何らの感慨ものべてありません。しかしこの道が、峠に上ると先に次の山が見え、またもう一つ山を越すと前方に山が見え、ずい分深い山道だったということは今によく憶えています。

 さてここ柳水庵には最近になって車道も通じてゆきやすくなりましたが、やはり今に藤井寺からの遍路道を登ってこられる人達も有るということです。



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