龍神恋慕 11



 前回は火伏せ龍の事 (というよりもお札の効力)を記したのですが、今回は、火之迦具土神の辺りにでもまいりましょう。

 カグツチノカミ。別名ヒノヤギハヤオ。ヒノカガヒコ。ホムスビとも言う。火を司る神とされている。イザナミノミコトの御子で、この神様が生まれた時イザナミ様は美番登 (みほと) を焼かれて、やがて崩じ給うたといわれている。死去するまでにも数体の神様を産んでおられますが、とにかく夫神イザナギ様の歎きぶりもただごとならず、遂に迦具土神を斬り捨てられましたが、その時に成りませる神々を次に列記すると、

  頭 まさかやまつみ

  胸 おどやまつみ

  腹 おくやまつみ

  陰所 くらやまつみ

  左手 しぎやまつみ

  右手 はやまつみ

  左足 はらやまつみ

  右足 とやまつみ

 以上八柱の神々ですが、このときの斬った刀を尾羽張 (をはばり)と言う。これは、をはばきり(尾蛇斬)のことで、「はば」はウハバミなどと相通じる言葉で勿論蛇類のことを指します。

 使用した刀が蛇斬り用であるということは、単純に使用せられた、つまり斬られた迦具土神が蛇であるということか。唯、ここでは蛇というも龍蛇のことである。

 元の親が龍蛇であれば、分断せられて出来た (生じた)八柱の神々〜ヤマツミ〜も龍蛇に他ならぬ。

 同行新聞 56号、恋慕4に龍宮の在所として海中ばかりでなく、山中にもあるというのが、実はこのヤマツミ系統に起因するのである。

 また斬られたカグツチが龍蛇ならば、産み親のイザナギイザナミ両神も当然龍蛇であるわけとなるが、こうすると万物悉皆龍蛇也といった奇怪なことにもなり兼ねない。まあ今の所、個神としてのイザナギイザナミのことは考えずにおいた方が無難であろう。

 ヤマツミノカミ (山祇神・山積神)。山を司る霊神。山持のこと也。このヤマツミの神の総本山が伊予大三島の、大山祇神社である。

 ところが、この神は仁徳天皇の御世に、百済より渡来 (さしたる資料もなく、どうしてどのようなもの、即ちヤマツミノカミが渡来したのか今は不問)摂津の国に鎮座しておられたのが、後、伊予に移られたという。一方この伝説とは別に、富士に坐す木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)の御父神ともいわれています。

 さて、この木花之咲夜姫は、天孫ニニギノミコトの子をはらみ給へるに、ニニギノミコトが疑われたので大いに怒り産屋に隠り火を放ちて出産されたという。筆者の妻の如くわずか五時間ばかりの陣痛にアウンアウンと唸りおるのとは違って、随分と神代の姫君は勇ましかったものである。

 火のもゆる時に生まれた三柱の神々は、ホデリノ命 (みこと)ホスセリノ命ホヲリノ命と全て名に、ホ(火)の字がついている。

 イザナミノミコトは、美番登を焼かれて、カグツチノカミを産んでから病いの床につかれたことと、この火をつけて産をなしたこととは何やら神秘めいたことを暗示しているようである。これが為か、今一度、出産と龍体 (元の体)発現のモチーフが重要な場面で語られている。それも、先ほど生まれた火遠理命(ホヲリノミコト)と豊玉姫の間にである。

 それは姫が御子を産まんとするに、ヤヒロワニに化 (な)りてはひもこよひき、とある。

 このヤヒロワニがただちに龍蛇であるとの確証はないのだが、ワニ型の龍蛇も存在するということか。いずれにしろトヨタマヒメは龍宮城のヘソノシタ。絵ニモカケナイ龍中の珠玉と目される御方なのである。

 琴持輪足



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